おばあちゃんの知恵袋の会 著名人インタビュー著名人が語る「私のおばあちゃんの知恵袋」 おばあちゃんの知恵袋の会
著名人が語る『私のおばあちゃんの知恵袋』
第1回 藤村俊二さん藤村俊二さん 第2回 橘家円蔵師匠橘家円蔵さん
第3回 松平直樹さん松平直樹さん 第4回 森山周一郎さん森山周一郎さん
第5回 山本文郎さん山本文郎さん 第6回 村松英子さん村松英子さん
第7回 大空眞弓さん大空眞弓さん 第8回 川又三智彦さん川又三智彦さん
第9回 ペマ・ギャルポさんペマ・ギャルポさん 第10回 細川佳代子さん細川佳代子さん
第11回 坂上二郎さん坂上二郎さん 第12回 北斗 晶さん北斗 晶さん
第13回 車だん吉さん車だん吉さん 第14回 矢追純一さん矢追純一さん
第15回 及川眠子さん及川眠子さん 第16回 船井幸雄さん船井幸雄さん
第17回 庄野真代さん庄野真代さん
第10回 細川佳代子さん (元首相・細川護煕夫人)
  『自分を変えるきっかけをつかもう!
   スペシャルオリンピックに参加してみませんか?』

 細川護煕(ほそかわもりひろ)元首相の夫人である細川佳代子さんは、知的発達障害者にスポーツの場を提供する「スペシャルオリンピックス日本」の理事長を務めています。
「スペシャルオリンピックス」とは、どんな活動なのでしょうか? また、この活動を支えている数多くのボランティアは、なぜ熱心に参加しているのでしょうか? 疑問を解くべく、細川さんにお話を伺いました。
自分の幸せだけを求める生活には満足できない。そんな方にとって、スペシャルオリンピックスに参加することは、今の自分を変えるチャンスになるかもしれません。
細川佳代子さん
細川佳代子さん
■ボランティアだからできること?


 今年の2月、長野で「スペシャルオリンピックス(SO)」が開催されました。この大会が無事終了したのも、1万1千人を越えるボランティアの協力があったからこそです。
 ボランティアの中には、雪が降りしきる中、暗くなるまで会場に向かう観客の誘導をする係の人がいました。その様子を目にした観客が、思わず「ご苦労様です。寒い中本当に大変ですね」と声をかけたそうです。

「お金をもらっていたら、とてもこんな仕事はできません。ボランティアだからできるのでしょうね」

 それが、寒空の下でがんばっていたボランティアから返ってきた言葉でした。経済性や効率が優先される現代社会では、「タダでは割に合わない」と考えるのが普通です。それなのに「お金をもらう仕事では、とてもこんなに辛いことはできない」という答えが返ってきた理由とは、一体何なのでしょうか?


■喜びを分かち合い、「心の目」を開く体験

 スペシャルオリンピックス(以下「SO」と略)は、知的発達障害のもつ人たちに、様々なスポーツの練習をする場と、その成果を発表する競技会を提供する組織のことです。この活動は全世界で年間を通して行われていて、長野で行われた4年に1度の世界大会は、SOが行う活動の一環として開かれたものです。
 最近、オリンピックの年に同時に開かれる「パラリンピック」は、多くの人に知られるようになりました。しかし、SOはパラリンピックとは性質が異なる活動です。
 パラリンピックに出場するのは身体に障害をもつ人たちです。一方、SOに参加するのは、知的発達障害をもつ人たちです。ちなみに、SOに参加する知的発達障害者のことを「アスリート」と呼びます。
 また、パラリンピックの競技大会は、厳しい条件を満たした世界トップクラスの選手だけが出場できます。一方、SOの競技会には、ふだんの練習に出席しているアスリートなら誰でも参加できるのです。

「SOは、年間を通してアスリートたちに運動を楽しむ場を提供しています。それは、ふだん身体を動かす機会が少ない彼らにとって、とても貴重な機会なんです。さらに、アスリートたちはスポーツにチャレンジすることを通して、目的達成の喜びや生きる喜びを実感することもできます」

 こう語るのは、NPO法人「スペシャルオリンピックス日本」の理事長、細川佳代子さんです。

「一方、SOに参加して下さるボランティアの方々は、目標に挑戦するアスリートのひたむきな姿から何かを感じ、実際に目標を達成できた喜びを一緒に分かち合うことができます。だからこそ、ボランティアがやめられなくなってしまうのだと思います」

 たとえばバスケットボールの場合、アスリートの多くは、それまでボールを手にしたことさえないため、最初は1回もドリブルができません。それでも、ボランティアに励まされながら練習を続けているうちに、必ず1回、2回とボールをつけるようになります。

「そんなとき、アスリートたちは本当に『やったー』という感じで、全身で喜びを表現してくれます。その姿を見ていると、こちらまでが『やったー』となるんです。ほんの数回ドリブルできるようになっただけ。こんなに小さなことを素直に喜び合える。ふだんの生活では、これほどすてきな体験はまずできないでしょう。
 アスリートたちは計算がないし、邪心がありません。また、人を恨んだり、ねたんだりすることもない。まさに自然体なんです。彼らの身体中からわき出てくる喜びにふれているうちに、ふと気がつくと、こちらの心まで弾んでいるんですよ」


 それは、日頃のストレス吹き飛んでしまって、肩がふっと軽くなるような体験だといいます。

「ふだんは世間体を気にし、さまざまなしがらみの中で苦しむことが多い私たちにとって、アスリートたちの素直さや純粋さにふれることは、自分らしさを取り戻すきっかけになります。それは、自分の心で感じていることを大切にすることです。こうして、ふだん使っていない『心の目』を開くことができることが、SOに参加するもう一つの魅力ではないかと思います」


■「自分にはできない」はあり得ない!


 SOには、参加を希望する知的発達障害者のうち8歳以上なら誰でも参加できます。また定期的に練習に出ていれば、必ず競技会にも参加できます。このため、競技会では、各アスリートのレベルに合わせて様々な競技を用意する必要があるのです。
 たとえばバスケットボールの場合、アスリートのレベルに合わせて3つのグループに分かれて試合が行われるだけでなく、その他にもシュートの正確性を競う競技や、ドリブルの速さを競う競技が行われます。だからこそ、たとえ試合に出られるだけの技術がなくても、ドリブルさえできるようになれば競技に参加できるのです。

「SOの使命は、『アスリートができることを準備すること』です。そのためには、同じ種目の中に様々なレベルの競技を用意するだけでなく、種目自体も増やす必要があるんです。というのも、種目の数が少ないとアスリートたちが飽きてしまうし、いろいろな種目にチャレンジして、どれが自分に向いているかをたしかめることができないからです。  このように種目や競技の数を増やすためには、より多くの方にボランティアとして参加していただく必要があります。でも、今のところボランティアの数が圧倒的に足りません。そのため、思ったように、種目や競技数を増やせないという状況なんです」

 細川さんによると、ボランティアがなかなか増えない原因の一つに「完璧主義」があるのだそうです。たとえば、「自分にはスポーツをした経験がない」「人様のお役に立つことをするなんて、とても無理」などの理由で、参加に消極的に人が多いというのです。

「でも、アスリートと一緒に楽しい時間を過ごしてみようと思われる方なら、どなたでもボランティアができるんですよ。とにかく、皆さんに力を貸していただきたいことは山のようにあります。『自分にはできることが何もない』ということは、決してあり得ません」

 たとえばアスリートの中には、じっとしていられなくて目を離すと迷子になってしまう人もいるそうです。そんなことにならないように、アスリートたちを見守ってくれる人が必要です。その他にも、出席簿をつける、身体の調子が悪いアスリートの面倒をみる、ニュースレターを作る、パソコンを使って名簿の管理をするなど、本当にたくさんの役割があるのです。さらには、競技会を盛り上げるための「声援ボランティア」や、協賛金という形での協力も大歓迎だといいます。

「ボランティアの中には、子育てに手がかからなくなった、定年を迎えたなどのきっかけで参加される方も多いんです。もちろん自分の趣味を楽しむのも素晴らしいことですが、それだけでは何か物足りない、少しでも世の中のためになることをしたいと考えている方にとっては、SOはぴったりの居場所になると思います」

 実際、70歳代でボーリングのコーチとしてSOに参加したある女性は「こんなに楽しいことはない!」と、それまで通っていたお稽古事をすべてやめて、アスリートとのふれあいや、ボランティア仲間との交流を楽しんでいるといいます。また、ボランティアの中には、今年87歳になるスピードスケートのコーチもいます。この人は、4年前にアラスカで行われた世界大会では、現地まで行ってアスリートたちに熱い声援を送ったそうです。




細川佳代子さん 細川佳代子さん(略歴)
  1966年上智大学英文科を卒業、日本企業の欧州駐在員として勤務。71年細川護煕氏と結婚。夫の政治活動を支えながら、多くのボランティア活動に参加。92年スペシャルオリンピックスの活動を開始。94年「スペシャルオリンピックス日本」設立、2001年に特定非営利活動法人となる。05年2月に長野で開催されたスペシャルオリンピックス冬季大会の会長を務める。現在、特定非営利活動法人スペシャルオリンピックス日本理事長、「世界の子供にワクチンを」日本委員会代表。



スペシャルオリンピックス とは?

 知的発達障害をもつ人たちにスポーツを練習する場と競技会を提供し、彼らの自立と社会参加を応援している国際的なスポーツ組織のこと。SOでは、スポーツ活動に参加する知的発達障害者を「アスリート」と呼ぶ。 1963年に故ケネディ大統領の妹が、自宅の庭を開放して開いたのがその起源。現在では、世界150カ国以上が加盟、約100万人のアスリートと75万人のボランティアが参加している。 SOが提供する継続的なスポーツ活動は、アスリートの健康や体力増進だけでなく、彼らの社会性を育んでいる。同時に、ボランティアもアスリートから多くのことを学んでいる。 現在、日本国内では27の都道府県に地区組織が設立され約5,000人のアスリートと約14,000人のボランティアが参加している。
http://www.son.or.jp


■障害者とふれあい、障害者のことを理解して欲しい

 細川さんの夢は、障害者たちが自分のできることをしながら、ごく普通に暮らしている。そして、健常者は彼らのことを自然な形でサポートしている。そんな思いやりにあふれた、温かい社会を実現することです。

「SOの世界大会を日本で開催したことは、決してゴールではありません。あくまでも、日本を障害者と共に生きることができる社会にするための第一歩だと考えています」


 世界大会の前は、ボランティアの参加を呼びかけても、どこか上の空の人が多かったそうです。細川さんは、その背景には、障害者とはあまり関わり合いたくないという気持があるのではないかと考えています。

「でも、決してその方たちが悪いとは思っていません。問題なのは、そういった方々のほとんどが、障害者がどんな人たちなのかを知らないということなんです。そのため、彼らと関わることに対して不安を感じているのだと思います。こうした状況を変えるためには、障害者とふれあう機会を作り、相手のことを理解することが必要です。
 SOの世界大会を日本で開催できたおかげで、たしかに以前よりも私たちの活動に注目して下さる方が増えました。でも、SOのすばらしさを言葉だけで伝えるのはほんとうに難しい。ぜひ、一人でも多くの方がSOに実際に参加して、その楽しさを体感してほしいのです。そのことが、障害者と共生できる社会の実現につながります。そして何よりも、ボランティアとして参加した方が『心の目』を開いて、それまでと違った生き方をするきっかけになるはずだと思っています」

 
  (第10回 細川佳代子さん インタビュー 終わり)

ありがとう。 2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野 メモリアルブック
ありがとう。
 〜2005年スペシャルオリンピックス 冬季世界大会・長野 メモリアルブック
  スキージャーナル社 1,575円(税込み)

「長野で行われた世界大会の様子を伝える写真集です。アスリートやその家族、そしてボランティアたちの感想も一緒に読めます。SOの魅力を知るために最適な1冊です。」

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