12.ネイル
爪の手入れを、金を払って人にしてもらう。それはとても贅沢なことだと私は思っている。
いわゆる技術を売る、という商売はたくさんある。たとえば美容院とかマッサージとかエステとか。でも、ネイルほど贅沢なものって他にないんじゃないだろうか。
だって、美容院でカットをするのと同じくらいの値段である。でも、カットした髪は最低でも1ヶ月は持つ。ネイルは10日間か、よくて2週間くらい。
マッサージはもう少し高いけど、「体の調子を整える」という意味では、やる意味がある。3回続けて鍼とマッサージに行けば、頑固な肩こりも少しは癒えるし、体もずいぶん軽くなる。
それに比べて、爪なんて綺麗にしていようがしていまいが、さして重要ではないのである。テレビに出るわけでもなきゃ、毎日パーティーがあるわけでもない人間にとっては。
また、爪を切ったりマニキュアを塗ったりするくらいなら、自分でもできることである。それをあえてプロにしてもらうというのは、洋服を換えるように人に見せびらかしたいがためだけなのだ。しかも洋服とは違い手元には残らない。10日間も経てば、除光液で永遠に消えてしまう。
そんな贅沢をしてしまった及川である。せめて記念にと写真に撮り、ついでにこの『衝動買い日記』にも書いてしまう、一般大衆以上のセコさ。
一人でも多くの人に見せびらかして元を取ろうという気持ちのもとに、来週でも全然間に合う打ち合わせを、爪が綺麗なうちにと今週中に入れたりする。さらに、気付かない人にはわざわざ、
「ほらっ! アートネイルしたの。綺麗でしょ!」
と目の前で手をかざしてみせる。まるで久しぶりに髪型を変えたのに、気付いてくれない旦那さんをなじるときの主婦が憑依したかのようである。
しかし、このアートネイル。実は結構気を遣うのである。
1日目の夜に素手でシャンプーしたところ、キラキラや花びらがものすごーく髪の毛に引っかかって邪魔になった。そして、シャンプーの後ふと指先を見てみたら、キラキラが一つ取れていたのである。ものすごーく悔しくて、その後は取れないようにとビニールの手袋をはめてシャンプーや洗い物をしていた。でもその次の日も、洋服のファスナーに引っかけて花びらが一枚もげた。
美しいものは、いつだって繊細で儚いのである。もともとの性根が繊細さとか儚さとかと無縁にできており、さらには一日でも長く持たせたいと願うセコさも相まって、結局アートネイルをしている最中はずっと指先に神経を使う羽目になってしまった。
ここから全然話は変わるが、私は(著書にも書いたが)手フェチである。その人の手や指を見て、その人自身を判断するというようなところがある。初対面の人は顔や話し方を観察するよりも手を見ていることが多い。
そんな私だから手の綺麗な男が好きなのかというとその逆で、手の綺麗な男ほど信用できない人種はいないと言いきれる。私の好みは骨太で大きく、手のひらが乾いていて指がまっすぐで爪が短い、という手である。さらに、手の甲の血管がはっきり出ているとなおよい。
なぜ私がそんなにも手にこだわるかと言うと、私の手は女ではかなりデカいからなのだ。指が長くて太く、子どもの頃に爪を噛む癖があったので(未だに治っていないが)爪が深爪で四角い。小さくて指が細くて、いかにも「女性らしい」という手とは正反対である。
「げぇーっ、デカい手だなぁ」
と言われることもしばしば。女性物の可愛い手袋は私には小さすぎ、華奢な指輪も時計も似合わない。そんな私のコンプレックスを助長するかのような手の綺麗な男は、だからダメなのである。
しかし、あるとき爪を伸ばして派手な色のマニキュアをしたところ、そんな泥臭い手が実に華やかな手になることを発見した。指が長いからである。また、私の手は大きな石の指輪が実によく似合う。
「事業で成功したり大金をつかむ女性は、必ずと言っていいほど大きな石の指輪が似合う人なのよ」
知り合いにそう言われたことをきっかけに、自分の手がとても好きになった。単純なものである。
そう言えば、細木数子をはじめテレビに出ている女性実業家は、「成功の証し」という意味も含め大きな指輪をしている人が多い。そして、みんな大きな指輪がよく似合うのだ。
そんなこんなで、人の手も気になりだしたというわけである。
さて話は戻って。
結局、アートネイルは1日目にキラキラが取れ、2日目には花びらが一枚もげたものの、そのあとはずーっとしぶとく私の指にくっついていた。
爪が伸び白い部分が目立つようになり、下地のマニキュア自体もはげだして、さすがにちょっとみっともないなぁと思いながらも、まだ未練たらたらで残しておいた約2週間後。籐のバスケットを整理しているときに引っかけてしまい、全部見事にはがれた。まぁ2週間も持てば、元は取ったと思うしかない。
でも、ああもったいないもったいないと言いながらも、指先が綺麗になるというのは実に嬉しいのである。
そんなところに自分の乙女心をつい発見してしまう及川であった。 |