13.禁煙セラピー 〜読むだけで絶対やめられる
1996年に発売されて以来、ずっと売れ続けている本である。それだけ禁煙したい、でも禁煙できない人が多いってことなんだろう。
この本のオビには、何人かの吉本興業のタレントが「これを読んだらタバコをやめられた」という内容のコピーを載せていて、さらに増販を重ねているようである。
及川は実は最近、タバコをやめられたらなぁと願うようになってきた。
思い起こせば30年近くもタバコを吸い続けている。経済的に苦しくなってとか、ものすごく体調を壊してとか、彼氏がタバコをやめろって言うのぉ〜などの「やめるきっかけ」もないまま、今に至っているわけである。はっきり言って、かなり強度のニコチン依存症でもある。
まぁでも、好きなものを我慢するストレスを感じて生きていくくらいなら、体に悪いとわかっていても吸い続ける方が、精神的にはいいに決まっている。もし肺ガンに罹ってしまっても、それも寿命とあきらめるだけ。ましてや、世の中の嫌煙ブームなんてくそくらえじゃ。一生タバコを吸ってやる、とも思っていた。
なのに、なぜやめられたらいいなぁと思っているのかと言うと、先に書いた「好きなものを我慢するストレス」を味わう機会がやたら増えたからである。
特に飛行機。これは長距離ともなるとかなりつらい。ニコチン切れの症状を緩和するために一応ニコレットを持ってはいくが、こんなものは気休め以下にしかすぎない。私はタバコが吸いたいのである。棒状になった草に火をつけて肺に入れて、そんでもってあたり構わずその煙を吐き出したいのだ。
4時間5時間くらいなら我慢もできる。だけど、たとえばトルコに行くとなると12時間半かかる。初めのうちは本を読んだり映画を観たりして何とか誤魔化せるが、フライトの後半ともなると、私の心からはずーっとタバコのことが離れなくなる。
空港に着いたら思いっきり吸ってやる。立て続けに何本も吸ってやる。そんな思いでよけいにイライラはつのり、到着まであと2時間くらいになるともうタバコのこと以外は考えられなくなってしまう。
そして空港に着いてからも、入管の審査で並んでいたり、バゲージが出てくるのがやたら遅かったりすると、ものすごく腹が立つ。
「ここまでサセたくせにっ!」
まるで最後までヤラせない女と同じである。…違うか?
てなわけで、そんな何の役にも立たないストレスを抱えるくらいなら、いっそのことキッパリとタバコをやめた方がいいんじゃないかと思い始めたのだ。
しかし、及川は無理をするのが嫌いである。タバコを我慢するストレスを断ち切るためのタバコを吸わないストレス(ややこしいぞ)を作ってしまっては、いったい何のためのストレスなのか、考えるとまたストレスが…って、禅問答じゃないんだからさ。
とにかく、あっさりと楽ちんにやめられるのがいいってんで、手に取ったこの『禁煙セラピー』という本。
スゴイぞ。読むだけでタバコがやめられる。さらに、読者の禁煙成功率が90パーセントらしい。
また、禁煙本にありがちな「タバコはどれだけ体に悪いか」という脅かしはほとんど書かれていない。あくまで理論的にわかりやすく、タバコを吸っている自分がいかに愚かな人間かを納得させ、
「ああ、もうタバコは吸わなくていいんだ」
という前向きな気分での禁煙を促すのだ。
さらに、この本を読んでいるあいだもタバコを吸っていても構わない、とさえ書いている。要するに、自分自身でやめる日を決めて、自分自身で禁煙をできるようにしているわけである。実際に、本を読んでからしばらくはタバコを吸っていた人も、ある日ふと「やめてみようかな」という気分になり、その日以来1本も吸わなくなったという話も聞いた。
おおっ。それこそ及川にピッタリではないか。
ちなみに、私は1箱270円のフィリップモリス・スーパーライトを1日に2箱から3箱のペースで吸い続けている。たとえば、1日平均50本だとして年間で計算すると、なんとっ246375円もタバコ代に費やしていることになる。あと20年吸い続けると考えれば、500万円もの出費となる。それが945円のこの本1冊で禁煙できれば、それこそラッキーじゃん。
という次第で、気持ちはすでに禁煙成功者。ウキウキ気分で本を買ったわけである。
さて、時は流れて。
『禁煙セラピー』を読んでから約2ヶ月後。及川がどうなったかと結論を言うと…。未だタバコを吸い続けているのである。
「これが最後の1本だ!」
そう決めてタバコと決別する、その後は楽しい人生が待っている。それはわかってはいても、その最後の1本になかなか決心がつかないのだ。
しかし、本を読んでしまったがため、タバコの毒性やタバコを吸うことの愚かさは身に沁みて理解している。タバコを吸うたびに、妙なうしろめたさも感じる。でもって、やっぱり「やめられたらなぁ」という気持ちも失ってはいない。
それでも、相変わらず1日50本のペースを守りながら吸い続けている及川は、むしろこの著者に「勝った!」というべきなのかもしれない。そんなことで勝ったって、ちっとも嬉しくないんだけどさ。
ここ何年かだけを見ても、私の周りでもタバコをやめた人は結構多い。10人くらいの集まりで喫煙者は私だけ、ということも少なくない。私一人のために「喫煙席」を要求する申し訳なさに加えて、かつてヘビースモーカー、今では禁煙者の友人から、
「おっ、眠子さんはまだ吸ってんの」
そんなお言葉を頂戴してしまう我が身の情けなさ。そして、私と同様にタバコをやめられない人たちと、狭くて臭い喫煙所でコソコソとタバコを吸うみじめったらしさ。今やタバコを吸っているだけで、素敵なマゾ気分が味わえるというもんだ。そのうちそんな仲間も櫛の歯が欠けるようにいなくなって、「最後の種族」になるときが来るかもしれない。
それでも、タバコはよくない、やめようって思えたことだけでも、今までにはなかった心境の変化ではある。一歩前進と考えればいいか。
ま、そのうちに…ってことで。今回はどうかひとつ。 |