まったくもって自慢でも何でもないのだが、私は十代の時からタバコを吸っていて、今や立派なヘビースモーカー。周りが次々とタバコをやめていく中でも、相変わらず母親に、
「尻の穴からケムリが出るほど」
と嘆かれるほど、タバコを吸い続けている。
そういう私がニコレットを買った。
とうとう世間の嫌煙ムードにめげて禁煙する気になったのかと言えば、そうではない。吸いたくても吸えない状況が、あまりにも多くなってきたからだ。
私鉄や地下鉄の駅、病院や公共施設、それにスポーツジムなどはもちろんのこと。レストランや喫茶店、オフィス内でも全面的に禁煙というのが増えてきている。
タバコを吸う人間にとっては、とにかく手持ちぶさたな時間が増えた。時には禁断症状でイライラして人に当たったり、一つのことに集中できなくなったりしてしまう。
以前は街のいたる所にあった灰皿も、一部を除き撤去されてしまった。でも、タバコを吸えない場所が増えた分、みんな外で吸おうとするから、道にはそんな人たちの捨てた吸い殻でいっぱいだ。気のせいか、以前より歩きタバコをする人も増えたように思う。
屋外でも吸うなと言いたくて灰皿を撤去したんだろうが、灰皿がないからみんな道に捨てる。これではよけいに悪循環じゃないだろうか。ちゃんと分煙スペースを設ければいいわけだし。
しかし、いちばんつらいのは何と言っても飛行機の中である。
私は年に2、3度トルコに行くのだが、トルコまでは直行便でも12時間半かかる。その前後、手続きに必要な時間を合わせると、14時間以上は禁煙を強いられてしまうのだ。
その際に禁断症状が出て、変なことを口走ったり挙動不審に陥ったりしまわないためにニコレットを買ったわけだ。まぁニコレットを買ったのをきっかけにあっさり禁煙できてしまえば、それにこしたことはないという気持ちもあったが。
これは要するに、ニコチンが含まれたガムである。普通のガムとは噛み方が違っていて、ガム1個を30〜60分くらいかけてゆっくり噛み続け、時々頬と歯茎の間に置いてやる。それによってニコチンが体内に入っていき、禁煙中にありがちのイライラや集中困難の症状を緩和させるようである。
また、私が買った『スターターキット』、つまり初めてニコレットを使う人用にはご丁寧に、
●A面/禁煙プログラムを始めるにあたって
●B面/禁煙プログラム開始後のアドバイス
という説明付きのカセット・テープまで入っている。
しかし、このニコレット。とにかくえらいことマズい。どう表現していいのか、とにかくピリピリする味わいなのだ。バナナ味とかいちご味のを作ってくれよと思うのだが、どだい無理な話なのだろう。
「タバコなんて全然美味しいものじゃないのに……」
タバコを吸わない人はたいていそう言うが、べつに美味しいと思って吸っているわけではない。タバコを初めて吸ったときは誰もが、
「げっ! こんなマズいもん、みんなよく吸えるよなぁ」
そう思うのである。で、面白半分に何度か吸っているうちに、そのうちやめられなくなってしまう。ニコレットは、その「初めてのタバコ経験」を上回るほどのマズさなのである。
じゃあニコレットも続けていたら、そのうちマズいと感じなくなるのかなぁと思っていたら、案の定。ニコチン依存症ならぬ『ニコレット依存症』になってしまった友人がいた。
彼は当初本気で禁煙に取り組んでニコレットを始めたのだが、1年近く経った今、ニコレットなしでは生きていけない日々である。
さらに、それできっぱりタバコがやめられたのかと言うと、それが全然ダメで、口寂しいからついつい1日に5本前後吸ってしまうとのこと。
けれど、タバコをやめるという前提でいるし、周りにも禁煙を言いふらしているから、後ろめたくて自分ではタバコを買えない。で、どうするかと言うと、彼の奥さんや友達に1本50円で売ってもらうのである。
禁煙を始める前、彼は1日1箱くらいしかタバコを吸っていなかった。多い日でも2箱はいかない。つまり300円くらいで済んでいた。
現在、2100円(24個入り)のニコレットは2日でなくなり、その上1本50円のタバコ代を日に何度も払っている。
「いっそのこと、タバコをやめるのをやめたら?」
そう言ったのだが、ニコレットをやめるためにタバコを吸うというのも、考えてみれば本末転倒。おかしな話である。 |