21.本棚
及川は年間150〜200冊の本を購入している。
洋服は流行り廃りもあるし、サイズが合わなくなって…ということもあるので、よっぽど気に入ったものでない限り3年も着れば誰かにあげてしまうことが多いが、本はなかなか処分できない。またいつか読むかも、いつか資料として役立ってくれるかも、という思いがあるからだ。なので当然ながら、増え続ける一方である。
私は相当な駄本でも捨てずに置いておく。稀に「手元にさえ置きたくない」というくらいの超傑作に当たることもあるが、滅多なことでは処分しない。CDも同じである。駄本はなるべく目に触れないように(見ると買ったことを後悔してしまうから)、本棚やCDラックの片隅に滑り込ませ、「とりあえず家にあるけど無視」という、まるで興味もなくなった亭主のような扱いである。
なのにそのくせ、人にもらった本やCDは平気であげてしまう。自分の金で買ったものは取っておくけど、人からもらったものには執着心はないって…。
決して私がケチだとかそういう理由ではなく(ホントか?)、自分が身銭を切ったものは「自分の血肉になるもの」、人にもらったものは「サンプル」もしくは「資料」という感覚があるからだろうと思う。サンプルや資料なら、よりたくさんの人に読んだり聴いたりしてもらった方がいいしね。
しかし、家の広さは決まっているので、どんなに知恵と隙間を生かしても限界がある。特に本。写真集なんかはすごくスペースを取るので、何冊かまとめて買ってしまったあとは、ひたすら置き場所に悩むだけである。
「これ以上、本を送ってくるな!」
実家からは、すでにそういうお達しが来ている。私が送りつけた本だけで、物置がいっぱいになってしまったらしい。すまん。
工夫して、さらに工夫して自宅の仕事部屋に置いていたが、とうとう収まりきれずに、また本棚を買うことになった。
ちなみに私の場合、本とCDは絶対にリビングルームには置かない。なぜかと言うと、リビングは人(お客さん)が出入りするからである。本棚に並んである本を見て、
「ああ、こういう本を読んでいるんだなぁ…」
そこから人間性や嗜好まで判断されてしまいそうで、何だかコワイのだ。いやいや、人はそこまであんたに興味を持っちゃくれねぇよと一笑されるかもしれないが、でもイヤなものはイヤ。心に頑固親父を抱える及川である。
逆を言えば、私は他人の本棚を覗くのが非常に好きである。読書傾向を見て、やはりその人なりを判断してしまうところがある。少なくとも、武田久美子や君島十和子の「生き方、なんたらアドバイス」的な本が置いてあるような女性とは、絶対に友達付きあいなんてできない。また、村上春樹や吉本ばななの本がずらりと並んでいるような本棚の持ち主にも、決して心を開いてみたいとは思わない。
そういうふうに「判断好き、分析好き」なヤツらがうちに来ないとは限らないのである。くわばらくわばら。
私は主に犯罪関係、戦争関係、歴史モノ、宗教モノを読むことが多いのだが、一度本棚を見た知人が、まるで異端者を見るような目付きをしたあとに、
「眠子さんの本棚って、おじいさんの本棚みたい…」
とかましてくれたことがあった。
ステキな生き方とか、上級の女になれる方法とか、涙の数だけ強くなれるとか…、うちにはそのテの本はないのである。自分ではそんな詞をボコボコ書いていて、ついでに本まで出してしまっているくせに(拙著『あした理想の自分になるルール』/イーストプレス。興味があったら買っておくれ。絶版になってるかもしれないけど)、書くものと読むものは違うんじゃよ。
それともう一つ、リビングに本やCDを置きたくない理由。
人が勝手に触るからである。酔っぱらった友人に、CDをそこらじゅうに巻き散らかされた経験アリ。せっかくきれいに並べていた本を、ぐちゃぐちゃにされた経験もアリ。さらには、
「あっ! コレ読みたかった本だ。貸して!」
そう言われると、断るわけにはいかないのである。ケチだからこそ、他人からケチと呼ばれたくない及川の悲しい根性。
「てめえで買えよ…」
心ではそう呟きつつも、ニッコリ笑顔で手渡す羽目に。しかも、貸した本やCDがきちんと返却される率は極めて低し。やっと戻ってきたと思えば、表紙やジャケットはボロボロに汚れ、時にはコーヒーのシミが付いていたこともある。
こういうのって、親の躾が悪いのか…?
金銭を含め、人との貸し借りがきらいな私。最も簡単に貸し借りしやすい本やCDは、とにかく人の目に触れないところに置いておくしかないのである。
で、新しく買った本棚は、寝室に据えることにした。ここなら夫と猫しか入ってこないしな。ちなみに、夫は日本語が全然読めない外人。猫はごはん食べて寝るだけしかできない動物。私の本には一切興味を示さない。
とりあえず、そこらじゅうに分散してあった本を移したら、なんと本棚の半分近くがすでに埋まってしまった。今のペースで買い続けると、1年か2年くらいでまた置き場所がなくなってしまう。
いっそ「仕事部屋」なるものを別に借りて、そこに書庫を作ろうかとも思っているが、ほとんど仕事をしていない身で、なんで仕事部屋ばかりを増やさなきゃいけないのか。悩む及川である。
ところで、話はチト変わるが。
私の場合、本以外にCDやDVDの代金、映画やコンサートのチケット代などはすべて「資料費」としていて、その合計金額が昨年度は約30万円であった(旅行などの「取材費」は別)。これは私の1年間の通信費よりも少ない。
音楽や書籍を生業としている人間が、仕事に必要とするものを躊躇することなく買って、その値段が年間30万円とは。安いなぁ…。
考えてみれば、読書や音楽鑑賞なんて、ものすごく安くすむ娯楽ではなかろうか。なのに、なぜ本もCDも売れなくなっているのか。不思議だ。もしかしたら「場所を取る」というのが、いちばんの理由かもしれないなぁ。なんて、そんなワケはないか。
しかし、ほかのどんなものに対しても「捨てる勇気」がめちゃくちゃあるのに、読まない文庫本1冊あげるのに躊躇してしまうって何なんだ。本とCDに人生の足を引っ張られているような気分である。
ああっ。もう1軒家が欲しい。アパートでもいい。何なら本棚を置くための壁だけでもいいぞ。
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