20年くらい前、「夜中に突然いなり寿司が食べたくなる、云々」というCMがあった。
確かに、夜中に急に何かを食べたくなることってあるよなぁ。思い立った途端セブン・イレブンに買いに行ける、日本はやっぱり便利な国だ。
でも、どうして昼間は考えもしなかったことを、夜起きていると不意に思い付いてしまうのだろう。思い返せば、引っ越ししたくなったり、猫を飼いたくなったり、カンボジアに行きたくなったり、愛が冷めたりしたのも、ほとんど夜中だった。
さらに、私は一度ひらめいてしまうと、なかなか忘れてしまえない困った性質なのである。
今年の初めに車を買い換えたのだが、そのときも夜中に突然、
「ああ、車を換えたい!」
となり、もう明日にでも車を買わなきゃ死んでしまう、というくらいの気分に陥ってしまった。そして、インターネットであらゆる自動車メーカーを調べまくり、翌日販売店で即お買い上げ。
それが今乗っているPTクルーザーである。
それまでは、フォードのマスタングに乗っていたのだが、10年近く乗って、走行距離はなんと2万kmちょっと。はっきり言って、車なんてさほど必要じゃないのである。おまけに、私は車の運転なんてちっとも好きじゃないし。でも、車は欲しい。何なんだ、これって。
また、私は車に詳しくもないくせに、妙なこだわりだけは持っていて、どんなにお金があってもベンツやBMWやポルシェはイヤだ。
これは私の偏見なのかもしれないが、このテの車に乗る人って、乗っている車で自分の価値を見せびらかしているような感じがする。たとえ中身が安くても、ベンツやBMWに乗っていれば人は認めてくれるだろう、というような浅知恵が隠れていそう……なんて言っちゃうと、怒られるかもしれないが。
「私は仕事がバリバリ出来て、人に自慢できるような男じゃないと付き合う気にならないの。だから、車もBMW以上じゃなきゃイヤ。日本車に乗っている男なんて、友達にもなりたくないわ」
と言った友人がいたのだが、そういうことを平気でのたまう女が身近にいたから、よけいに車に対する先入観が出来上がってしまったのかもしれない。
ベンツやBMWに乗っている人が、全員スノッブだとは思わない。しかし、本当に車が好きなヤツは、ドイツ車は選ばないんじゃないだろうか。
って、私もべつに車が大好きというわけでもないのだが。
実は、私がいちばん欲しい車はハマー。つまり「軍用車」なのである。それもできれば迷彩色に塗って、都内をぶいぶいいわせたい。
私の場合、車にはさほど興味がないけれど、軍事には関心がある。大して必要性は感じないくせに、車は欲しい。その結果のハマーなのである。
しかし、ハマーに乗りこなせるほど、私の運転技術は優れていない。なんせちょっと狭い駐車場だったりすると、すぐに係員の兄ちゃんを呼んで、運転を代わってもらうほどである。首都高速なんて怖くて怖くて、合流のときなどつい目をつぶってしまう。
10年乗った私のマスタングは、エンジンはピカピカだったけど、ボディーはあちこちぶつけまくって傷だらけだった。それでも、大きな事故は起こしたことがないのは、きっと周りがじょうずによけてくれていたのだろうと思う。
そんな私にハマーを与えたりしたら、立派な凶器になりかねない。それくらいは自分でもわかっているので、せめて小さな軍用車もどき、つまりジープを買おうと思ったのだが……。
私の家は、最近流行りの「ステップ・アップ住宅」というやつで、半地下が駐車場になっているという造りである。でもって、その駐車場は天井がめちゃくちゃ低い。身長162cmの私がやっと立てるくらいの低さである。
どんなに探しても、その駐車場に入るジープが見つからなかった。もちろんハマーなんてむりゃくた入れたら、車よりも家が壊れてしまう。
なので、クライスラーのPTクルーザーにしたというわけである。
でも、なんでジープからいきなりPTクルーザーになったのか。その理由も自分自身よくわからない。
まぁ、軍用車が欲しいくらいだから、アメ車が好きなのである。ヨーロッパ車のいかにもおしゃれな雰囲気や、日本車の機能的な感じに魅力を抱かないのだ。デカい音を立ててガソリン撒き散らして走る、それが車らしくていい。
で、このPTクルーザーなのだが、マスタングに慣れていただけに、とにかくスピードが全然出ない、特に出だしの加速がとろいという気がしてしまう。排気量は2000ccなのに、もたもた走っている感がある。
それ以上にもっと気になるのは、たとえば灰皿やミラーの調整位置が「遠い」ということだ。
うんと手を伸ばしても、ミラーの調整部分に届かない。かがみ込む姿勢でミラーを調整するのだが、調整し終わったあとシートに背中をつけてミラーを見ると、当たり前だがずれている。
灰皿は取り外しが出来るようになっているのだが、置き位置が下にありすぎて、いちいち灰皿を外して手元に持ってこないと、タバコの火を消せない。
不便よねー、親切じゃないわーと思っていたのだが、友人に運転を代わってもらったとき、ふと気付いた。
私は、手が短い。
そう言えば……。コートもセーターもシャツも、すべて袖が余っている。指の付け根くらいまで、袖がきてしまう。最近の洋服は袖が長くできているんだなぁとずっと思っていたのだが、まさか自分の手が短かったとは。
でも、そういった難(私自身の欠陥か)もあるが、今のところPTクルーザーは気に入っている。
アメリカのクラシック・カーを彷彿させるようなデザインも可愛いし、荷物も結構積めるし、乗っている人がまだ少ないみたいで珍しがられるし。それに、何と言っても今度の車には「カーナビ」が付いているのだ。
何度も行ったことがある場所でさえ、何度も道を間違える及川なので、これはとっても便利だと思っていたら、このカーナビというのもなかなかの曲者で、ものすごい遠回りの道を選んでみたり、画面では右を指し示しながら、「左方向に曲がってください」と言ったりする。
メーカーによってそれぞれ癖があったりするみたいなのだが、私が買ったのはとにかく高速道路に乗るのを避ける、というタイプのようで、高速道路に乗りインターが近付くたび、「降りてください、降りてください」と催促する。うるさいったらありゃしない。
で、最近はあまりカーナビに頼らなくなった。そして、やっぱり道を間違えている。
私にとって、車は靴と同じようなもの。だから、必要以上に手をかけたり、「土足厳禁」とか書いた紙を貼ったり車内禁煙にするなど、神経質なまでに大切に扱ったりもしないのだが、乗っているうちに次第に愛着も湧いてくる。
でも、やっぱり夜は早く寝るのに限る、と思う今日この頃である。 |