及川眠子は優秀な作詞家である。・・・というふうに言ってくれる人もいるが、実は私は作詞よりも企画の仕事の方が好きなのである。その証拠に、自分が書くものの内容に関してのこだわりがほとんどない。こだわりのないのがこだわり、と言ってしまえるほどである。
自分が立てた企画が採用されたときがいちばん嬉しい。その後の詞や文章を書いたりレコーディングをしたりする作業は、私にとっては「おまけ」みたいなものだ。
さらには、お金を儲けて、たとえばそれでブランド品を買いたいとか高級外車に乗りたいとかいう望みもない。
相変わらず衝動買いをくりかえしてはいるが、自分のステイタスのために物を買いたいという気持ちが薄いのである。衝動買いや浪費は単なるストレス発散。心から欲しいと願い、手に入れたあとも大切にしているものなどもあまりない。
儲けた金の吐き出し先は、常にその大半が「仕事のため」に。そして、結果は美しいまでに空振りに終わり、無駄金と化していくことが多い。
大した仕事をしないどころか、会社の経費で飲み食いしたり交通費と称して小銭を誤魔化したりするマネージャーに払ってきた金は、カンボジアにいくつも小学校を建てられるほどであった。
また、人材発掘から始まり、ずっと育ててきたのにかかわらず土壇場で裏切られたアーティストに費やした時間や苦労を改めて考えると、イラクでストリートチルドレン相手にボランティアしていた方がよっぽど報われるとさえ思えてしまう。
なのに、なのに・・・。
及川はなぜか懲りないのである。
そういう商売だから仕方がないと言ってしまえばお終いなのだが、相変わらず何か思いつくたび、手間暇かけて金もかけて(たいていの人にとってはしょうもないことを)やらかしているのである。
私にとっては金を儲けることと使うことはほとんど同一線上にある。つまり、金を稼ぐ行為は大好き。でも、金自体にはまったくと言っていいほど執着がない。仕事をしたいがために金を稼ぐだけである。
私自身は空疎で孤独な人間である。特別に何かを信じて生きているというわけでもないし。だから、何かが欲しい。でも、物なんて興味がない。物は自分の手に残ってしまうから。作り上げて、一生懸命に作り上げて、そして消えていくものがいい。
「ブロックを積み上げて完成させた途端に壊してしまう、まるで子どもと同じだね」
と言われたことがあるが、確かにそうだ。面白いものは常に出来上がる過程にしか存在しない。
私は自分が書いた作品がCDになってサンプル盤が送られてきても、それを聴くことはほとんどない。出来上がった瞬間に興味を失ってしまうのだ。そして、また次のことを考え始めるのである。
私にとって、仕事は自分の存在意義であるとともに、ストレス解消法であり、人生を賭けての趣味でもある。だから、楽しいことをしていたい。
長引く不況のせいか、最近は音楽業界も厳しくなってきていて、なかなか自分のやりたいことが出来ない。同業者に関わらず、みんなそうボヤきまくっている。
でも待てよ。だったら自分で作っちゃえばいいじゃんと思いついて、そこから始まったのが、この『愛の人質』の音楽DVDの企画・制作である。なんせ及川、企画するのが大好きだからさ。おまけに、仕事となれば多少の金ももったいないと思わない。
もちろんDVDは私一人きりでは作れない。
私と軍事ジャーナリストの加藤健二郎、ウェブデザイナーの諸橋博子の三人が言い出しっぺなのだが、もともと話が出た時点では、商業作詞家と軍事ジャーナリストのコラボレーションという、かつて誰もやったことがないことをやってみたくて、さらには、売れた分の小銭を分け合うのは面倒くさいし、ケンカのもとになるから全部寄付しちゃおう、という信念も思想もなかった。ただ面白がって何かをしたかっただけ。
また、自主制作とは言え話題性がなきゃということで、イラクで拘束された(本人は決して「人質」ではないと言い張っている)ジャーナリストの安田純平に歌わせようと交渉し彼もOKしていたのだが、途中で彼自身がひよってしまい、結果的に歌とパフォーマンスは別の人間がやるということになるという、まぁそれなりの紆余曲折もあったわけだが・・・。
しかし、チャリティーを掲げたお陰で、協力してくれた人たちのギャラはすべてタダ。
「いいよぉ、お金なんていらないよ」
と言ってくれ、一緒に遊んでくれるような人たちはたいてい余裕がある、つまりは一流の人間たちだったりするから、非常にクオリティーの高いものを作ることが出来た。
さすがにDVDのプレス代金はタダにはしてもらえなかったので(当たり前だ!)、それは及川・加藤・諸橋が均等で負担。一人当たり101400円を支払った。
それ以外にも撮影用のスタジオを借りたり、プロモーション用としてサンプルCDを作ったり、チラシのコピー代、送料などの雑費がある。当然それなりの金額も、また時間や手間も費やしてきた。
ざっと計算すると、それでも全部で20万円以内に収まっているのである。
たとえば年末年始に5泊7日でハワイに行くとして、20万円くらいは簡単に使ってしまう。そう考えると、何ヶ月も『愛の人質』の制作で遊ばせてもらって、これがきっかけでいろんな人とも知り合いになれたことを思えば、すごーく安いんじゃないか?
また、DVDを見たり、情報だけでも行った人たちから様々な反応が寄せられていて、それを見たり聞いたりするのもまた楽しい。
再び書くが、信念も思想もないところからのスタートなので、DVDでは「戦争反対」も「自衛隊撤退」も決して主張していない。私は単にイラクを舞台にしたラブソングをやりたかっただけ。
だって、社会や時代の縮図なんて、男と女の関係性の中にあるものだし、個人の愛情より強いものなんてこの世にはないと思うからね。
良識ある人たちからは、
「実際に人が死んでいるのにふざけている!」
「イラクよりもまずは新潟だろう!」
ということも言われたりしたが、それも個人の考え方であり、私はだからこそ、あえて『愛の人質』というような反感を買うかもしれないタイトルで、世の中に「音楽という名のテロ」を起こそうと思ったのだ。
もっと言えば、「人質」なんて言葉に過敏に反応しないくらいに、世界が平和になることを願っているのさ。
思いつきで始めたことだけど、20万円でたっぷり遊ばせてもらった。
いつもこんな浪費なら楽しいのだけどね。
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