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暮らしに役立つおばあちゃんの知恵袋

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著名人が語るおばあちゃんの知恵袋



 故・橘家円蔵師匠

第2回 故・橘家円蔵師匠

「金が欲しいか命が欲しいかって
 聞かれたから、
 金だ、って言ったね]


■ 30代から血圧200
 
  

 円蔵師匠の事務所は、
 御茶ノ水駅にほど近くビルの一室にある。

 師匠: 「よ、来たね」
 と年齢を感じさせない元気な声で
 迎えてくれた師匠だが、
 実は最近、いくつもの病気に
 悩まされているのだという。

 師匠: 「目は前から白内障だろ。
 2年くらい前に、目をあけると
 黒い雲が出るんで、
 マズい と思って医者に行ったら、
 網膜剥離になってるから、
 早くしないと
 失明しちゃうっていわれて、
 手術してやっと治ったの。
 で、胃も悪い。
 こないだも、食べて胸がむかつくんで、
 こりゃガンかもしれないって
 医者いったら、
 『年なだけだよ』なんてね。
 血圧も高いし、腸も悪い。
 血が濃くなりすぎるってんで、
 薄くする薬をしょっちゅう飲んでる」

 これだけ調子が悪くても、
 好きな酒は止められない師匠。
 それで、医者を選ぶ時には、
 酒好きの人にするのだという。

 師匠
 「そしたら『飲むな』とは、
 いわないだろ。そのかわり、
 『手がしびれてきたらよしなよ』
 とはいわれるけどね」

 血圧でいえば、
 すでにムチャクチャ忙しかった
 32〜33の頃、200いってたという。
 動くとやたらと体がほてってくるので、
 これはおかしいぞ、と測ってみたら、
 あんまり高いので
 医者もビックリしたとか。
 ところが、この頃は
 まだ酒は飲めなかった。
 19で二つ目になった師匠、
 もう大人だ、と酒を飲んだら
 悪酔いして、ヒドい目にあったのだ。

 師匠
 「便所に行ったらさ、
 金隠しが立って迫って来るの。
 いけね、と思う前に
 それにぶつかって倒れちゃった。
 ホントはオレが
 頭ぶつけただけだけど。
 それから、酒飲んだら死んじゃう、
 と思ってやめてた」

 ■ストレス解消は仕事だった

 

 ストレス解消は、
 もっぱら仕事たったのだ。
 仕事さえやってれば、
 悩みは翌日に引かない。
 それで殺人的なスケジュールを組み、
 噺家仲間の立川談志に
 こう言われたことまであった。

 談志師匠
 「 お前さ、そんなに
 仕事ばかりやってたら死ぬよ。
 金欲しいか、命が欲しいか、
 よーく考えな」
 師匠は間髪入れずにこうきり返した。
 「金が欲しい」
 
 このときのことを
 振り返って円蔵師匠曰く、
 「だいたいね、
 お金が欲しがってるような人は
 死なないよ。精神が強いから」
 なるほど、それもそうだ。

 それが40代に入って
 酒の味に目覚め、
 一晩でボトル一本いくまでに
 なってしまった。

 師匠
 「まァ、最近はビールの中ビン
 2本で酔っ払っちゃうから、
 かわいいもんだな。
 ウッワッハッハッ」
 とても病気をいくつも抱えてる
 とは思えない元気そのものの声で笑った。

 ■おばあちゃんの知恵
 
 

 師匠の故郷は、
 東京の江戸川区平井。
 子供の頃は「バカ元気」な
 ヤツだったという。

 師匠
  「とにかく何でも食っちゃうんだ。
 サツマイモだろうが何だろうが
 ナマでかじるの」
 だから、たとえ風邪をひいても、
 ネギの湿布なんかしやしない。

 首にネギまくなんてな、
 いいとこのオボッチャン。
 オレたち長屋のガキは
 ネギ巻いたら食っちゃうもの」

 ただ、ショウガを入れた
 くず湯や玉子酒なんかは、
 大人たちは飲んでいたという。
 コメカミに熱取りで梅をくっつけてた
 「梅干しババア」も実際にいたらしい。

 師匠
 「いっぺん驚いたのはね、
 確か小学校の頃だったか、
 隣りのオヤジが血圧高くて
 ひっくり返ったの。
 そしたら近所の長屋のカーチャンが、
 茶碗を割って、
 それでオヤジの首筋のあたりを切って、
 ブワッと血を出さしちゃってる。
 『これやらないと、
 脳溢血になっちゃうんだよ』
 なんて言いながら。
 すごかったね、あれは」

 どうも、首筋切ったら
 死んでしまうんしゃないか、とも思うが、
 師匠は真顔で語ってくれたのだから、
 たぶん実際に見たのだろう。

 ・生前、インタビューでかく豪快に
  語ってくれた円蔵師匠でした。
  天国でもおそらくこの勢いで
  しゃべり続けていらっしゃる
  ことでしょう。
  師匠のご冥福を心から
  お祈り申し上げます。
                −終わり−